story 3

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 軽く挨拶を交わしたところで、ヘーネはあることに気がつく。この国…ユースピアには青黒い髪を持つ人など極めて少ない。そのような髪の色をしているのは、外国人、もしくは。

「フライフィアさん」

「なんだ」

「どうして、そのような姿をとられているのですか」

 フライフィアはいまいちぴんとこない様子で、首をかしげる。

「…この姿だと、まずいことでもあるのか」

「いいえ?むしろ待遇がよいほうではないでしょうか。ただ…今までその姿をとられているのは、いままで1度もないと聞きました」

「そうか」

「…どうして、そのような姿をとられているのですか」

 そして彼は、あごをふっと軽く上げる。夜空のような毛束がさらさらと後頭部へと流れた。…懐かしむようにそっと目を細めると、まぶたによって目の光は抑えられ、僅かに部屋が暗く感ぜられる。

「確かに、この体は窮屈だ。でも、俺が出て行くと…とたんに潰れてしまう」彼にしては優しい声色で、ゆっくりと語り出す。

 ヘーネはできるだけその話の腰を折らないように、音に気をつけてメモを取り出した。


 …本当は、彼はもっと別の体に入るつもりだったという。だが、そこへと飛んでゆく途中、危篤状態の赤子が目にとまったそうだ。

 もちろん、助ける義理など全くない。彼が「入らなければ」もうじき死ぬだけで、そのままうまく世界は回る。しかし、「入れば」この子は生き延びられる。…ありあまる神の力に耐えられ続ける保証はないが。

 究極の選択だった。彼はその一瞬のうち考えて、その結論として、いまここにいる…。


 ざっくりとまとめると、だいたいこんなだろうか。

 「もちろん、現在進行形でこの体は侵食されている。成人になるまで持っていたら凄いくらいだ」

「…なるほど」

ヘーネは何故か、かすかに苛立ってペンを走らせていたのだが、本人でさえそれに気付かずに質問を重ねていく。


「では、あなたの生み出す水晶とは…いったい、何ですか?」

「まだ聞くことがあるのか」

「答えてくれると言ったではないですか」

「それもそうだ。水晶…これでいいのか」

フライフィアは突然、左手をヘーネに突き出した。そのとき、手のひらから透明なそれがせり出し、最後まで出し切ると、床へ吸い込まれるように落ちた。金属のぶつかる音にも似た、澄んだ高い音が響く。

「それです」目の前で起きた現象にやや戸惑いつつ、彼女は肯定の意を示した。

「これは、俺にとっては…排泄物だ」